『イマジン』(アンジェイ・ヤキモフスキ監督/2012年/ポーランド・ポルトガル・フランス・イギリス/105分/カラー/デジタル/5.1ch/日本語字幕:濱野恵津子)、渋谷のシアターイメージフォーラムで昨日より公開。
2日目の本日、見に行ってきた。
映画の中で、犬の息づかいや鳥のさえずりが響く。
普段だったらあまり気にもとめないような音が、強調されて表現されているのが印象深い。
舞台は、リスボンにある視覚障害者のための診療所。
もっとも、実際に撮影に使われたのは、リスボンから東に100kmあまり離れたエヴォラという町の修道院だそうである。
小さな田舎町だが、歴史あるところで、旧市街は世界文化遺産にも登録されている。
映画の中では、この診療所はリスボンにあるという設定だから、一歩外に出ると、往来する自動車の騒音もいっそう激しく響く。
この診療所に、イアン(エドワード・ホッグ)という青年がやってくる。
彼が担当するのは、視覚障害者の生活訓練のようなことのようだ。
彼は、舌や手で音を発して周囲の障害物を把握する「反響定位」を使って歩く方法を教えたり、グラスに水を注ぐ方法を指導したりする。
イアンの指導を受けるのは、子どもから青年といった年齢の十数人。
実際の視覚障害者が演じている。
水を注ぐ場面では、水を周囲にこぼしたり、たくさん入れ過ぎて溢れさせたりしていたが、もちろん演技としてわざと下手にやっていたのだろう。
映画のオフィシャルサイトの「ストーリー」というページには、イアンは、盲目の子どもたちを相手に“反響定位”の方法を教える「インストラクター」である、と書かれている。
反響定位に熟達した彼は、「生徒たち」の好奇心をあおり、勇気づけ、独創的な「授業」を展開する。
イアンのやり方に批判的な(?)ペドロス医師(フランシス・フラパ)は、彼が教えている「生徒たち」のことを、いつも「患者たち」と言う。
確かに、ここは診療所であって、学校ではないのだが。
だから、主人公側に肩入れするような気分で映画を見ていると、イアンは新しい世界を切り開く改革者、ペドロス医師はそれに抵抗する守旧派の悪役、となる。
しかし、これを単に反響定位と白杖歩行の対決の物語として見てしまってはいけない。
映画のパンフレットの中に、筑波大学附属視覚特別支援学校の石崎さんと江村さんのお話が載っている。
ごく一部を抜粋してみる。
石崎 白杖を持っているというのは、周りの人がよけてくれるという意味でも重要なんです。
江村 反響定位を使えば白杖なしでも自由に歩けるよ、というふうには受け止めてほしくないなと思いますね。
(『イマジン』パンフレット 19ページ)
視覚障害者は、周囲のさまざまな情報を取り入れながら、自分で状況を把握し、行動しているのである。《参考文献》
『イマジン』パンフレット,マーメイドフィルム(2015).
《参照・リンク》
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『イマジン』の美しい町
タグ : 映画反響定位歩行白杖