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『イマジン』の美しい町

 映画『イマジン』(アンジェイ・ヤキモフスキ監督/2012年/ポーランド・ポルトガル・フランス・イギリス/105分/カラー/デジタル/5.1ch/日本語字幕:濱野恵津子)の舞台は、リスボン。

 「路面電車が行き交う古都リスボンのクラシックな佇まい」(オフィシャルサイト「作品紹介」)は、エキゾチックでいかにも美しい。
イアンに感化されたセラーノ(メルキオール・ドルエ)がバーの常連客たちに港への道を尋ねた場面では、常連客は28番のトラムとか言っていた。
リスボンの市街には、おそらくたくさんの路面電車が縦横に走っているのだ。
画面に登場したバーの近くの街路も路面電車が通っているが、さほど道幅の広い大通りには見えなかった。
信号機も横断歩道もない道を、人々はタイミングを見計らって渡る。
視覚障害者でなくても、危険に見える。

 映画の中ほど、エヴァ(アレクサンドラ・マリア・ララ)が診療所から外出する場面がある。
引きこもりがちだったエヴァも、診療所に暮らす他の視覚障害者たちも、みんな外の世界に出たいのだ。
エヴァといっしょに歩道を歩きながら、「直進すれば歩行者はよける」と、イアンは言う。

 ひるがえって、現在のわれわれを取り巻く社会を見る。
歩行者は、ほんとうによけてくれるだろうか?

 昨年9月、埼玉県の川越駅で全盲の女子生徒が傷害を受ける事件があった。
事件を受けて、埼玉県視覚障害者福祉協会が実施したアンケートには、外出時に危険や恐怖を経験したとの回答が多く寄せられた。

  最近は携帯やスマホをやりながら歩く人がぶつかります。

  最近特に危険を感じることは、駅構内での歩きスマホです。

といった記述が目立つ。

 ほんとうに美しい町とは、どんな町か。
それは、白杖を持った人に出会ったときに、周囲の人がよけてくれるゆとりと心遣いのある町のことなのだ。
この映画の中でヤキモフスキ監督が描きたかったリスボンは、きっとそんな美しい町であるに違いない。


《参考文献》
 『イマジン』パンフレット,マーメイドフィルム(2015).

《参照・リンク》
映画『イマジン』オフィシャルサイト

公益社団法人埼玉県視覚障害者福祉協会 > 埼視協News 2014年9月21日 視覚障害者の外出に関するアンケートについてのご報告 (アンケート集計結果は、pdfファイル)

《関連記事》
全盲生徒傷害事件
映画『イマジン』

タグ : 映画歩行白杖

映画『イマジン』

 『イマジン』(アンジェイ・ヤキモフスキ監督/2012年/ポーランド・ポルトガル・フランス・イギリス/105分/カラー/デジタル/5.1ch/日本語字幕:濱野恵津子)、渋谷のシアターイメージフォーラムで昨日より公開。
2日目の本日、見に行ってきた。

 映画の中で、犬の息づかいや鳥のさえずりが響く。
普段だったらあまり気にもとめないような音が、強調されて表現されているのが印象深い。

 舞台は、リスボンにある視覚障害者のための診療所。
もっとも、実際に撮影に使われたのは、リスボンから東に100kmあまり離れたエヴォラという町の修道院だそうである。
小さな田舎町だが、歴史あるところで、旧市街は世界文化遺産にも登録されている。
映画の中では、この診療所はリスボンにあるという設定だから、一歩外に出ると、往来する自動車の騒音もいっそう激しく響く。

 この診療所に、イアン(エドワード・ホッグ)という青年がやってくる。
彼が担当するのは、視覚障害者の生活訓練のようなことのようだ。
彼は、舌や手で音を発して周囲の障害物を把握する「反響定位」を使って歩く方法を教えたり、グラスに水を注ぐ方法を指導したりする。
イアンの指導を受けるのは、子どもから青年といった年齢の十数人。
実際の視覚障害者が演じている。
水を注ぐ場面では、水を周囲にこぼしたり、たくさん入れ過ぎて溢れさせたりしていたが、もちろん演技としてわざと下手にやっていたのだろう。

 映画のオフィシャルサイトの「ストーリー」というページには、イアンは、盲目の子どもたちを相手に“反響定位”の方法を教える「インストラクター」である、と書かれている。
反響定位に熟達した彼は、「生徒たち」の好奇心をあおり、勇気づけ、独創的な「授業」を展開する。

 イアンのやり方に批判的な(?)ペドロス医師(フランシス・フラパ)は、彼が教えている「生徒たち」のことを、いつも「患者たち」と言う。
確かに、ここは診療所であって、学校ではないのだが。

 だから、主人公側に肩入れするような気分で映画を見ていると、イアンは新しい世界を切り開く改革者、ペドロス医師はそれに抵抗する守旧派の悪役、となる。

 しかし、これを単に反響定位と白杖歩行の対決の物語として見てしまってはいけない。

 映画のパンフレットの中に、筑波大学附属視覚特別支援学校の石崎さんと江村さんのお話が載っている。
ごく一部を抜粋してみる。

  石崎  白杖を持っているというのは、周りの人がよけてくれるという意味でも重要なんです。

  江村  反響定位を使えば白杖なしでも自由に歩けるよ、というふうには受け止めてほしくないなと思いますね。
  
(『イマジン』パンフレット 19ページ)

 視覚障害者は、周囲のさまざまな情報を取り入れながら、自分で状況を把握し、行動しているのである。


《参考文献》
 『イマジン』パンフレット,マーメイドフィルム(2015).

《参照・リンク》
映画『イマジン』オフィシャルサイト

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『イマジン』の美しい町

タグ : 映画反響定位歩行白杖

アブディンさん初講義

  『わが盲想』の著者、モハメド・オマル・アブディンさんの名前を、久しぶりに目にした。
以下、読売新聞の記事。

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スーダン人特任助教 初講義

 内戦が長く続いたアフリカ・スーダン出身で、盲目のモハメド・オマル・アブディンさん(36)が東京外国語大学(府中市)の特任助教に就任し、23日に「植民地独立後のアフリカにおける政治―近代化計画から紛争まで」の初講義を行った。
 アブディンさんは1978年、首都ハルツーム生まれ。生まれつきの弱視で、12歳でほぼ視力を失った。同国の大学で法律を勉強していたが、軍事クーデターで大学が閉鎖となり、日本の視覚障害者支援団体の招きで19歳の時に鍼灸を学ぶため来日した。最初は福井県立盲学校で学び、「日本語や政治などを幅広く勉強したい」との思いで、2003年に東京外大に入学した。
 故郷のスーダンでは05年に南北内戦の和平合意が成立したが、アブディンさんは「多くの犠牲者を出し、経済が疲弊する前にもっと早く合意できなかったのか」と強く疑問を抱いた。大学で内戦の原因などを探る研究に打ち込み、昨年9月に博士号を取得。特任助教に就任した。
 初講義には学生19人が出席。冒頭、アブディンさんは「質問があれば、手をたたいて教えてほしい。照れずに意見を発表し、議論しよう」と呼びかけ、まずはアフリカの白地図と国名を一致させる演習を行った。
 初講義を終えたアブディンさんは「平和の実現には、現状を正しく分析することが大事」と話し、さらなる研究に意欲を燃やした。

(読売新聞 2015年4月24日)
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 日本の三療を学ぶために来日した海外の視覚障害者は、日本で得た知識や技術を故国に持ち帰るのが本来であるが、中にはこのアブディンさんのように日本に居を構えて活躍する人もないではない。

 アブディンさんの専門研究領域が、三療から現代アフリカ政治へとシフトしていく話は、『わが盲想』の後半部にも出ている。
並々ならぬ苦労もあったことと想像されるが、感心させられるものである。
前途を祝したい。


《参照・リンク》
読売新聞 2015年4月24日

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『わが盲想』

タグ : モハメド・オマル・アブディン福井盲学校鍼灸三療

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